小説の戯曲化
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頗《すこぶ》る

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)原稿料|乃至《ないし》上場料
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 売文に関する法律は不備を極めてゐるやうである。たとへば或雑誌社に若干枚の短篇を一つ渡し、若干円を貰つたとする。その時その若干金は小説そのものだけを売つた金か、それとも小説の書いてある若干枚の原稿用紙を売つた金か、法律には何とも規定されてゐない。これは我我の原稿ならば兎も角、夏目先生の原稿にでもなれば当然問題を生ずる筈である。が、まあそんなことはどうでも好い。差当り頗《すこぶ》る困ることは或種の著作権侵害である。
 たとへばこの間菊池寛は小説「義民甚兵衛」を三幕の戯曲に書直した。あれを菊池自身はやらずに、僕でも戯曲に書直したとする。その場合僕は友誼上、或は慣例上一応菊池の許可を待つた後、戯曲に書直すのに違ひない。のみならずその原稿料|乃至《ないし》上場料の何割かはちやんと菊池にも奉納するであらう。しかし万一許可を受けず、原稿料乃至上場料をすつかり着服してしまつたにしろ、僕は必しも罰金
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