は苦笑《くしょう》した。それを見るとどう云う訣《わけ》か、堀尾一等卒の心の中《うち》には、何かに済まない気が起った。と同時に相手の苦笑が、面憎《つらにく》いような心もちにもなった。そこへ江木《えぎ》上等兵が、突然横合いから声をかけた。
「どうだい、握手で××××のは?」
「いけねえ。いけねえ。人真似をしちゃ。」
 今度は堀尾一等卒が、苦笑せずにはいられなかった。
「××れると思うから腹が立つのだ。おれは捨ててやると思っている。」
 江木上等兵がこう云うと、田口一等卒も口を出した。
「そうだ。みんな御国《おくに》のために捨てる命だ。」
「おれは何のためだか知らないが、ただ捨ててやるつもりなのだ。×××××××でも向けられて見ろ。何でも持って行けと云う気になるだろう。」
 江木上等兵の眉《まゆ》の間《あいだ》には、薄暗い興奮が動いていた。
「ちょうどあんな心もちだ。強盗は金さえ巻き上げれば、×××××××云いはしまい。が、おれたちはどっち道《みち》死ぬのだ。×××××××××××××××××××××たのだ。どうせ死なずにすまないのなら、綺麗《きれい》に×××やった方が好いじゃないか?」
 
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