し》の硬《かた》まった脚、――蜘蛛はほとんど「悪」それ自身のように、いつまでも死んだ蜂の上に底気味悪くのしかかっていた。
こう云う残虐《ざんぎゃく》を極めた悲劇は、何度となくその後繰返された。が、紅い庚申薔薇の花は息苦しい光と熱との中に、毎日美しく咲き狂っていた。――
その内に雌蜘蛛はある真昼、ふと何か思いついたように、薔薇の葉と花との隙間《すきま》をくぐって、一つの枝の先へ這い上った。先には土いきれに凋《しぼ》んだ莟《つぼみ》が、花びらを暑熱に※[#「てへん+丑」、第4水準2−12−93]《ねじ》られながら、かすかに甘い※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》を放っていた。雌蜘蛛はそこまで上りつめると、今度はその莟と枝との間に休みない往来を続けだした。と同時にまっ白な、光沢のある無数の糸が、半ばその素枯《すが》れた莟をからんで、だんだん枝の先へまつわり出した。
しばらくの後《のち》、そこには絹を張ったような円錐形《えんすいけい》の嚢《ふくろ》が一つ、眩《まばゆ》いほどもう白々《しろじろ》と、真夏の日の光を照り返していた。
蜘蛛は巣が出来上ると、その華奢《きゃし
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