二 わたしたち
わたしたちは必ずしもわたしたちではない。わたしたちの祖先はことごとくわたしたちのうちに息づいている。わたしたちのうちにいるわたしたちの祖先に従わなければ、わたしたちは不幸に陥《おちい》らなければならぬ。「過去の業《ごう》」という言葉はこういう不幸を比喩《ひゆ》的に説明するために用いられたのであろう。「わたしたち自身を発見する」のはすなわちわたしたちのうちにいるわたしたちの祖先を発見することである。同時にまたわたしたちを支配する天上の神々を発見することである。
三 鴉《からす》と孔雀《くじゃく》と
わたしたちに最も恐ろしい事実はわたしたちのついにわたしたちを超《こ》えられないということである。あらゆる楽天主義的な目隠しをとってしまえば、鴉《からす》はいつになっても孔雀《くじゃく》になることはできない。ある詩人の書いた一行の詩はいつも彼の詩の全部である。
四 空中の花束
科学はあらゆるものを説明している。未来もまたあらゆるものを説明するであろう。しかしわたしたちの重んずるのはただ科学そのものであり、あるいは芸術そのものである。―
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング