リ々の間に、薄白い羽裏を閃《ひらめ》かせながら、すぐに宵暗《よひやみ》へ消えようとする、――トウルゲネフはその瞬間、銃を肩に当てるが早いか、器用にぐいと引き金を引いた。
一抹の煙と短い火と、――銃声は静な林の奥へ、長い反響を轟かせた。
「中《あた》つたかね?」
トルストイはこちらへ歩み寄りながら、声高に彼へ問ひかけた。
「中《あた》つたとも。石のやうに落ちて来た。」
子供たちはもう犬と一しよに、トウルゲネフの周囲へ集まつてゐた。
「探して御出で。」
トルストイは彼等に云ひつけた。
子供たちはドオラを先に、其処此処と獲物を探し歩いた。が、いくら探して見ても、山鴫《やましぎ》の屍骸《しがい》は見つからなかつた。ドオラも遮二無二《しやにむに》駈け廻つては、時々草の中へ佇《たたず》んだ儘、不足さうに唸るばかりだつた。
しまひには、トルストイやトウルゲネフも、子供たちへ助力を与へに来た。しかし山鴫は何処へ行つたか、やはり羽根さへも見当らなかつた。
「ゐないやうだね。」
二十分の後トルストイは、暗い木々の間に佇みながら、トウルゲネフの方へ言葉をかけた。
「ゐない訳があるものか? 石の
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