指環によらないで自分を本当に愛して下さる人を見付けたのは本当にうれしい事です。」と云ひました。王様は「三人共指環を貰つてゐるのに実際指にそれを嵌めたのは、私一人であつて、しかもそれによつて誤まらされたのは自分一人である。こんな指環は私には必要なものではない。」と云つて床に投げ付けると、その指環は割れて、内から焔が立つて、アラアがその焔の中から出て三人に祝福を与へて消えてしまひました。
そこで王様は、この娘を妃にし、又この老人を大臣として政治を行つてゐました。然るに晩年に至つて乱が起つて、王様は大臣と妃を伴れて、国を逃れてチフリス河のほとりに止り、そこで、自ら食を求めると云ふ様な境遇になりました。が、しかしそこには、どこか楽しい所がありました。(談話)
※[#ローマ数字2、1−13−22]
一
バグダツドの或モスク(寺院)の前《まへ》です。年をとつた乞食が一人《ひとり》、敷石の上にひれ伏してゐました。丁度礼拝の終つた時ですから、老若さまざまのアラビア人は薄暗いモスクの玄関から、朝日の光のさした町へ何人もぞろぞろ出て来るのです。が、誰一人この乞食に銭を投げてやるものはあ
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