た非人《ひにん》たちが、四方から私どもをとり囲みました。それがまた、大抵《たいてい》は摩利《まり》の教の信者たちでございますから、私どもが太刀を捨ててしまったのを幸に、いざと云えば手ごめにでもし兼ねない勢いで、口々に凄じく罵り騒ぎながら、まるで穽《わな》にかかった狐《きつね》でも見るように、男も女も折り重なって、憎さげに顔を覗きこもうとするのでございます。その何人とも知れない白癩《びゃくらい》どもの面《おもて》が、新に燃え上った芥火《あくたび》の光を浴びて、星月夜《ほしづくよ》も見えないほど、前後左右から頸《うなじ》をのばした気味悪さは、到底この世のものとは思われません。
が、その中でもさすがに摩利信乃法師《まりしのほうし》は、徐《おもむろ》に哮《たけ》り立つ非人たちを宥《なだ》めますと、例の怪しげな微笑を浮べながら、私どもの前へ進み出まして、天上皇帝の御威徳の難有《ありがた》い本末《もとすえ》を懇々と説いて聴かせました。が、その間も私の気になって仕方がなかったのは、あの沙門の肩にかかっている、美しい薄色の袿《うちぎ》の事でございます。元より薄色の袿と申しましても、世間に類《たぐい》
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