いもよらない凶変でも起りそうな不吉な気がするのです。が、このような事は殿様に申上げても、あの通りの御気象ですから、決して御取り上げにはならないのに相違ありません。そこで、私は私の一存で、あの沙門を姫君の御目にかかれないようにしようと思うのですが、叔父さんの御考えはどういうものでしょう。」
「それはわしも、あの怪しげな天狗法師などに姫君の御顔を拝ませたく無い。が、御主《おぬし》もわしも、殿様の御用を欠かぬ限りは、西洞院《にしのとういん》の御屋形の警護ばかりして居《お》る訳にも行かぬ筈じゃ。されば御主はあの沙門を、姫君の御身のまわりに、近づけぬと云うたにした所で。――」
「さあ。そこです。姫君の思召しも私共には分りませんし、その上あすこには平太夫《へいだゆう》と云う老爺《おやじ》も居りますから、摩利信乃法師が西洞院の御屋形に立寄るのは、迂闊《うかつ》に邪魔も出来ません。が、四条河原の蓆張《むしろば》りの小屋ならば、毎晩きっとあの沙門が寝泊りする所ですから、随分こちらの思案次第で、二度とあの沙門が洛中《らくちゅう》へ出て来ないようにすることも出来そうなものだと思うのです。」
「と云うて、あの
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