れがまた静かになりますと、突然盗人たちの唯中から、まるで夜鳥《よどり》の鳴くような、嗄《しわが》れた声が起りました。
「やい、ここなうっそりどもめ。まだ乳臭いこの殿の口車に乗せられ居って、抜いた白刃を持て扱うばかりか、おめおめ御意に従いましょうなどとは、どの面下げて申せた義理じゃ。よしよし、ならば己《おの》れらが手は借りぬわ。高がこの殿の命一つ、平太夫が太刀ばかりで、見事申し受けようも、瞬く暇じゃ。」
こう申すや否や平太夫は、太刀をまっこうにふりかざしながら、やにわに若殿様へ飛びかかろうと致しました。が、その飛びかかろうと致したのと、頭だった盗人が、素早く白刃を投げ出して、横あいからむずと組みついたのとが、ほとんど同時でございます。するとほかの盗人たちも、てんでに太刀を鞘におさめて、まるで蝗《いなむし》か何かのように、四方から平太夫へ躍りかかりました。何しろ多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》と云い、こちらは年よりの事でございますから、こうなっては勝負を争うまでもございません。たちまちの内にあの老爺《おやじ》は、牛の※[#「革+橿のつくり」、第3水準1−93−81]《はづな》でございましょ
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