はたはたと扇を御鳴らしになりながら、例の気軽な御調子で、
「それは重畳《ちょうじょう》じゃ。何、予が頼みと申しても、格別むずかしい儀ではない。それ、そこに居《お》る老爺《おやじ》は、少納言殿の御内人《みうちびと》で、平太夫《へいだゆう》と申すものであろう。巷《ちまた》の風聞《ふうぶん》にも聞き及んだが、そやつは日頃予に恨みを含んで、あわよくば予が命を奪おうなどと、大それた企てさえ致して居《お》ると申す事じゃ。さればその方どもがこの度の結構も、平太夫めに唆《そそのか》されて、事を挙げたのに相違あるまい。――」
「さようでございます。」
これは盗人たちが三四人、一度に覆面の下から申し上げました。
「そこで予が頼みと申すのは、その張本《ちょうぼん》の老爺《おやじ》を搦《から》めとって、長く禍の根を断ちたいのじゃが、何とその方どもの力で、平太夫めに縄をかけてはくれまいか。」
この御仰《おんおお》せには、盗人たちも、余りの事にしばらくの間は、呆れ果てたのでございましょう。車をめぐっていた覆面の頭《かしら》が、互に眼を見合わしながら、一しきりざわざわと動くようなけはいがございましたが、やがてそ
前へ
次へ
全99ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング