て、
「ええ、何が阿呆ものじゃ。その阿呆ものの太刀にかかって、最期《さいご》を遂げる殿の方が、百層倍も阿呆ものじゃとは覚されぬか。」
「何、その方どもが阿呆ものだとな。ではこの中《うち》に少納言殿の御内でないものもいるのであろう。これは一段と面白うなって参った。さらばその御内でないものどもに、ちと申し聞かす事がある。その方どもが予を殺害しようとするのは、全く金銀が欲しさにする仕事であろうな。さて金銀が欲しいとあれば、予はその方どもに何なりと望み次第の褒美を取らすであろう。が、その代り予の方にもまた頼みがある。何と、同じ金銀のためにする事なら、褒美の多い予の方に味方して、利得を計ったがよいではないか。」
若殿様は鷹揚《おうよう》に御微笑なさりながら、指貫《さしぬき》の膝を扇で御叩きになって、こう車の外の盗人どもと御談じになりました。
十五
「次第によっては、御意《ぎょい》通り仕《つかまつ》らぬものでもございませぬ。」
恐ろしいくらいひっそりと静まり返っていた盗人たちの中から、頭《かしら》だったのが半《なかば》恐る恐るこう御答え申し上げますと、若殿様は御満足そうに、
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