みかど》の少納言殿は、誰故の御最期《ごさいご》じゃ。」
「予は誰やら知らぬ。が、予でない事だけは、しかとした証《あかし》もある。」
「殿か、殿の父君か。いずれにしても、殿は仇《かたき》の一味じゃ。」
 頭立った一人がこう申しますと、残りの盗人どもも覆面の下で、
「そうじゃ。仇の一味じゃ。」と、声々に罵り交しました。中にもあの平太夫《へいだゆう》は歯噛みをして、車の中を獣のように覗きこみながら、太刀《たち》で若殿様の御顔を指さしますと、
「さかしらは御無用じゃよ。それよりは十念《じゅうねん》なと御称え申されい。」と、嘲笑《あざわら》うような声で申したそうでございます。
 が、若殿様は相不変《あいかわらず》落ち着き払って、御胸の先の白刃も見えないように、
「してその方たちは、皆少納言殿の御内《みうち》のものか。」と、抛《ほう》り出すように御尋ねなさいました。すると盗人たちは皆どうしたのか、一しきり答にためらったようでございましたが、その気色《けしき》を見てとった平太夫は、透かさず声を励まして、
「そうじゃ。それがまた何と致した。」
「いや、何とも致さぬが、もしこの中に少納言殿の御内《みうち
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