捨児
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)浅草《あさくさ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一時|正気《しょうき》を失った

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]
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「浅草《あさくさ》の永住町《ながすみちょう》に、信行寺《しんぎょうじ》と云う寺がありますが、――いえ、大きな寺じゃありません。ただ日朗上人《にちろうしょうにん》の御木像があるとか云う、相応《そうおう》に由緒《ゆいしょ》のある寺だそうです。その寺の門前に、明治二十二年の秋、男の子が一人捨ててありました。それがまた生れ年は勿論、名前を書いた紙もついていない。――何でも古い黄八丈《きはちじょう》の一つ身にくるんだまま、緒《お》の切れた女の草履《ぞうり》を枕に、捨ててあったと云う事です。
「当時信行寺の住職は、田村日錚《たむらにっそう》と云う老人でしたが、ちょうど朝の御勤めをしていると、これも好《い》い年をした門番が、捨児《
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