こく》ですから。母も死ぬまでその事は一言《いちごん》も私に話しませんでした。やはり話す事は私にも、残酷だと思っていたのでしょう。実際私の母に対する情《じょう》も、子でない事を知った後《のち》、一転化を来したのは事実です。」
「と云うのはどう云う意味ですか。」
私はじっと客の目を見た。
「前よりも一層なつかしく思うようになったのです。その秘密を知って以来、母は捨児の私には、母以上の人間になりましたから。」
客はしんみりと返事をした。あたかも彼自身子以上の人間だった事も知らないように。
[#地から1字上げ](大正九年七月)
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年1月27日第1刷発行
1993(平成5)年12月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月19日公開
2004年3月9日修正
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