孔子《こうし》は※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》をつかれたことになる。聖人の※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]をつかれる筈《はず》はない。」
僕は勿論黙つてしまつた。それから又皿の上の肉へナイフやフオオクを加へようとした。すると小さい蛆《うじ》が一匹静かに肉の縁に蠢《うごめ》いてゐた。蛆は僕の頭の中に Worm と云ふ英語を呼び起した。それは又麒麟や鳳凰のやうに或伝説的動物を意味してゐる言葉にも違ひなかつた。僕はナイフやフオオクを置き、いつか僕の杯にシヤンパアニユのつがれるのを眺めてゐた。
やつと晩餐のすんだ後、僕は前にとつて置いた僕の部屋へこもる為に人気のない廊下を歩いて行つた。廊下は僕にはホテルよりも監獄らしい感じを与へるものだつた。しかし幸ひにも頭痛だけはいつの間にか薄らいでゐた。
僕の部屋には鞄は勿論、帽子や外套も持つて来てあつた。僕は壁にかけた外套に僕自身の立ち姿を感じ、急いでそれを部屋の隅の衣裳戸棚の中へ抛《はふ》りこんだ。それから鏡台の前へ行き、ぢつと鏡に僕の顔を映した。鏡に映つた僕の顔は皮膚の下の骨組みを露《あら》はしてゐ
前へ
次へ
全56ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング