とかお茶を濁してゐた。しかし十四五の女生徒の一人はまだいろいろのことを問ひかけてゐた。僕はふと彼女の鼻に蓄膿症のあることを感じ、何か頬笑《ほほゑ》まずにはゐられなかつた。それから又僕の隣りにゐた十二三の女生徒の一人は若い女教師の膝の上に坐り、片手に彼女の頸を抱きながら、片手に彼女の頬をさすつてゐた。しかも誰かと話す合ひ間に時々かう女教師に話しかけてゐた。
「可愛いわね、先生は。可愛い目をしていらつしやるわね。」
彼等は僕には女生徒よりも一人前の女と云ふ感じを与へた。林檎《りんご》を皮ごと噛じつてゐたり、キヤラメルの紙を剥《む》いてゐることを除けば。……しかし年かさらしい女生徒の一人は僕の側を通る時に誰かの足を踏んだと見え、「御免なさいまし」と声をかけた。彼女だけは彼等よりもませてゐるだけに反《かへ》つて僕には女生徒らしかつた。僕は巻煙草を啣《くは》へたまま、この矛盾を感じた僕自身を冷笑しない訣《わけ》には行かなかつた。
いつか電燈をともした汽車はやつと或郊外の停車場へ着いた。僕は風の寒いプラツトフオオムへ下り、一度橋を渡つた上、省線電車の来るのを待つことにした。すると偶然顔を合せた
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