詩集
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)仮綴《かりと》ぢ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一二冊|神田《かんだ》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]ひ
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彼の詩集の本屋に出たのは三年ばかり前のことだつた。彼はその仮綴《かりと》ぢの処女詩集に『夢みつつ』と言ふ名前をつけた。それは巻頭の抒情詩《ぢよじやうし》の名前を詩集の名前に用ひたものだった。
夢みつつ、夢みつつ、
日もすがら、夢みつつ……
彼はこの詩の一節ごとにかう言ふリフレエンを用ひてゐた。
彼の詩集は何冊も本屋の店に並んでゐた。が、誰も買ふものはなかつた。誰も? ――いや、必《かならず》しも「誰も」ではない。彼の詩集は一二冊|神田《かんだ》の古本屋《ふるぼんや》にも並んでゐた。しかし「定価一円」と言ふ奥附のあるのにも関《かかは》らず、古本屋の値段は三十銭|乃至《ないし》二十五銭だつた。
一年ばかり
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