の着物にやはり対《つゐ》の絽《ろ》の帯をしめ、当時流行の網をかけた対のパラソルをした所を見ると、或は姉《ねえ》さんに妹かも知れない。僕は丁度《ちやうど》この二人《ふたり》をモデル台の上へ立たせたやうに、あらゆる面と線とを鑑賞した。由来夏の女の姿は着てゐるものの薄い為に、――そんなことは三十年|前《まへ》から何度も婦人雑誌に書かれてゐる。
 僕はなほ念の為にこの二人を通り越しながら、ちらりと顔を物色《ぶつしよく》した。確かにこの二人は姉妹《しまい》である。のみならずどちらも同じやうにスペイド形《がた》の髪に結《ゆ》つた二十《はたち》前後の美人である。唯|鴛鴦《をしどり》は鷺《さぎ》よりも幾分か器量は悪いかも知れない。僕はそれぎりこの二人を忘れ、ぶらぶら往来《わうらい》を歩いて行つた。往来は前にも云つた通り、夏の日の照りつけた銀座である。僕の彼等を忘れたのは必ずしも僕に内在する抒情詩《ぢよじやうし》的素質の足《た》りない為ではない。寧《むし》ろハンケチに汗をふいたり、夏帽子を扇の代りにしたり、爍金《しやくきん》の暑《しよ》と闘ふ為に心力《しんりよく》を費してゐたからである。
 しかし彼是《
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