佐藤春夫氏
芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)旗幟鮮明《きしせんめい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)有島生馬[#「有島生馬」に傍点]君
−−

 佐藤春夫は不幸にも常に僕を誤解してゐる。僕の「有島生馬[#「有島生馬」に傍点]君に与ふ」を書いた時、佐藤は僕にかう云つた。「君はいつもああ云ふ風にもの云へば好いのだ。あれは旗幟鮮明《きしせんめい》で好い。」僕はいつも旗幟鮮明である。まだ一度も莫迦《ばか》だと思ふ君子に、聡なるかな、明なるかななどと云つたことはない。唯莫迦だと云はないだけである。それを旗幟不鮮明のやうに思ふのは佐藤の誤解と云はなければならぬ。
 又僕の「保吉の手帳」を書いた時、佐藤は僕にかう云つた、「うん、あれは好いよ。唯僕に云はせれば、未完成の美を認めないのは君の為に遺憾だと思ふね。」これも佐藤の誤解である。僕は未完成の美に冷淡ではない。さもなければ何も僕のやうに、恬然《てんぜん》と未完成の作品ばかり発表する気にはなれぬ訳である。
 又僕の何かの拍子に「喜劇を書きたい」と云つた時、佐藤は僕にかう云つた
次へ
全3ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング