到すれば、惜みても猶《なほ》惜むべき限りならずや。ポオル・クロオデル日本に来りし時、この東海道の松並木を見て作る所の文一篇あり。痩蓋《そうがい》煙を含み危根《きこん》石を倒すの状、描《ゑが》き得て霊彩《れいさい》奕々《えきえき》たりと云ふべし。今やこの松並木亡びんとす。クロオデルもしこれを聞かば、或は恐る、黄面《くわうめん》の豎子《じゆし》未《いまだ》王化に浴せずと長太息《ちやうたいそく》に堪へざらん事を。(二月五日)
日本
ゴオテイエが娘の支那《シナ》は既に云ひぬ。〔Jose' Maria de Heredia〕 が日本も亦《また》別乾坤《べつけんこん》なり。簾裡《れんり》の美人|琵琶《びは》を弾《たん》じて鉄衣の勇士の来《きた》るを待つ。景情|元《もと》より日本ならざるに非ず。(le samourai)されどその絹の白と漆と金《きん》とに彩《いろど》られたる世界は、却《かへ》つて是|縹渺《へうべう》たるパルナシアンの夢幻境のみ。しかもエレデイアの夢幻境たる、もしその所在を地図の上に按じ得べきものとせんか、恐らく仏蘭西《フランス》には近けれども、日本には遙《はるか》に
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