v人の画像を得て、愛翫《あいがん》する事|洪璧《こうへき》の如し。千八百六十六年、ボオドレエルの狂疾を発して、巴里《パリ》の寓居に絶命するや、壁間|亦《また》この檀口雪肌《だんこうせつき》、天仙の如き麗人図あり。星眼|長《とこし》へに秋波を浮べて、「悪の華《はな》」の詩人が臨終を見る、猶《なほ》往年マドリツドの宮廷に、黄面の侏儒《しゆじゆ》が筋斗《きんと》の戯《ぎ》を傍観するが如くなりしと云ふ。(五月二十九日)

     売色鳳香餅

 支那に龍陽《りやうやう》の色《しよく》を売る少年を相公《しやうこう》と云ふ。相公の語、もと像姑《しやうこ》より出づ。妖※[#「女+堯」、第4水準2−5−82]《えいぜう》恰《あたか》も姑娘《こぢやう》の如くなるを云ふなり。像姑相公同音相通ず。即《すなはち》用ひて陰馬《いんば》の名に換へたるのみ。支那に路上春を鬻《ひさ》ぐの女《ぢよ》を野雉《やち》と云ふ。蓋《けだ》し徘徊|行人《かうじん》を誘《いざな》ふ、恰《あたか》も野雉の如くなるを云ふなり。邦語にこの輩を夜鷹《よたか》と云ふ。殆《ほとんど》同一|轍《てつ》に出づと云ふべし。野雉の語行はれて、野雉車
前へ 次へ
全34ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング