ようれい》が、満洲朝廷に潔《いさぎよ》からざるの余り、牛鬼蛇神《ぎうきだしん》の譚《ものがたり》に託して、宮掖《きゆうえき》の隠微を諷したるは、往々本邦の読者の為に、看過《かんくわ》せらるるの憾《うら》みなきに非ず。例へば第二巻所載|侠女《けふじよ》の如きも、実は宦人《くわんじん》年羹堯《ねんかうげう》の女《ぢよ》が、雍正帝《ようせいてい》を暗殺したる秘史の翻案に外ならずと云ふ。崑崙外史《こんろんぐわいし》の題詞に、「董狐豈独人倫鑒《とうこあにひとりじんりんのかんならんや》」と云へる、亦《また》這般《しやはん》の消息を洩らせるものに非ずして何ぞや。西班牙《スペイン》にゴヤの Los Caprichos あり。支那に留仙《りうせん》の聊斎志異《れうさいしい》あり。共に山精野鬼《さんせいやき》を借りて、乱臣賊子を罵殺せんとす。東西一双の白玉瓊《はくぎよくけい》、金匱《きんき》の蔵《ざう》に堪へたりと云ふべし。(五月二十八日)

     麗人図

 西班牙《スペイン》に麗人あり。Dona Maria Theresa と云ふ。若くしてヴイラフランカ十一代の侯 〔Don Jose' Alval
前へ 次へ
全34ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング