ムぜん》としてブウシエの見《けん》に赴《おもむ》く事無しと云ふ可らず。白眼《はくがん》当世に傲《おご》り、長嘯《ちやうせう》後代を待つ、亦《また》是《これ》鬼窟裡《きくつり》の生計のみ。何ぞ若《し》かん、俗に混じて、しかも自《みづか》ら俗ならざるには。籬《まがき》に菊有り。琴《こと》に絃《げん》無し。南山《なんざん》見|来《きた》れば常に悠々。寿陵余子《じゆりようよし》文を陋屋《ろうをく》に売る。願くば一生|後生《こうせい》を云はず、紛々《ふんぷん》たる文壇の張三李四《ちやうさんりし》と、トルストイを談じ、西鶴《さいかく》を論じ、或は又甲主義乙傾向の是非曲直を喋々《てふてふ》して、遊戯|三昧《ざんまい》の境《きやう》に安んぜんかな。(五月二十六日)

     罪と罰

 鴎外《おうぐわい》先生を主筆とせる「しがらみ草紙《さうし》」第四十七号に、謫天情僊《たくてんじやうせん》の七言絶句《しちごんぜつく》、「読罪与罰上篇《つみとばつじやうへんをよむ》」数首あり。泰西《たいせい》の小説に題するの詩、嚆矢《かうし》恐らくはこの数首にあらんか。左にその二三を抄出すれば、「考慮閃来如電光《かうり
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