竦ク
西洋に男子の遺精《ゐせい》を歌へる詩ありや否や、寡聞にして未《いまだ》之を知らず。日本には俳諧|錦繍段《きんしうだん》に、「遺精驚く暁のゆめ、神叔《しんしゆく》」とあり。但《ただし》この遺精の語義、果して当代に用ふる所のものと同じきや否やを詳《つまびらか》にせず。識者の示教《しけう》を得ば幸甚《かうじん》なり。(四月十六日)
後世
君見ずや。本阿弥《ほんあみ》の折紙《をりかみ》古今《ここん》に変ず。羅曼《ロマン》派起つてシエクスピイアの名、四海に轟く事|迅雷《じんらい》の如く、羅曼派亡んでユウゴオの作、八方に廃《すた》るる事|霜葉《さうえふ》に似たり。茫々たる流転《るてん》の相《さう》。目前は泡沫、身後《しんご》は夢幻。智音《ちいん》得可からず。衆愚度し難し。フラゴナアルの技《ぎ》を以太利《イタリイ》に修めんとするや、ブウシエその行《かう》を送つて曰《いはく》、「ミシエル・アンジユが作を見ること勿《なか》れ。彼が如きは狂人のみ」と。ブウシエを哂《わら》つて俗漢と做《な》す。豈《あに》敢《あへ》て難しとせんや。遮莫《さもあらばあれ》千年の後《のち》、天下|靡然《
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