b玉《たま》の如きウイツチを描《ゑが》きしもの、尋ぬれば猶多かるべし。されど白髪蒼顔のウイツチの如く、活躍せる性格少きは否《いな》み難き事実ならんか。スコツト、ホオソオンが昔は問はず、近代の英米文学中、妖婆を描きて出色なるものは、キツプリングが The Courting of Dinah Shadd の如き、或は随一とも称すべき乎《か》。ハアデイが小説にも、妖婆に材を取る事珍らしからず。名高き Under the Greenwood の中なる、エリザベス・エンダアフイルドもこの類なり。日本にては山姥《やまうば》鬼婆《おにばば》共に純然たるウイツチならず。支那にてはかの夜譚随録《やたんずゐろく》載する所の夜星子《やせいし》なるもの、略《ほぼ》妖婆たるに近かるべし。(二月八日)

     柔術

 西人《せいじん》は日本と云ふ毎《ごと》に、必《かならず》柔術を想起すと聞けり。さればにやアナトオル・フランスが「天使の反逆」の一章にも、日本より巴里《パリ》に[#「巴里《パリ》に」は底本では「里巴《パリ》に」]来れる天使|仏蘭西《フランス》の巡査を掻《か》い掴《つか》んで物も見事に投げ捨つるく
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