セりあり。モオリス・ルブランが探偵小説の主人公|侠賊《けふぞく》リユパンが柔術に通じたるも、日本人より学びし所なりとぞ。されど日本現代の小説中、柔術の妙を極めし主人公は僅に泉鏡花《いづみきやうくわ》氏が「芍薬《しやくやく》の歌」の桐太郎《きりたらう》のみ。柔術も亦《また》予言者は故郷に容《い》れられざるの歎無きを得んや。好笑《かうせう》好笑。(二月十日)
昨日の風流
趙甌北《てうおうぼく》が呉門雑詩《ごもんざっし》に云ふ。看尽煙花細品評《えんくわをみつくしてこまかにひんぴやうす》、始知佳麗也虚名《はじめてしるかれいのまたきよめいなるを》、従今不作繁華夢《いまよりおこさずはんくわのゆめ》、消領茶煙一縷清《せうりやうすさえんいちるのせい》。又その山塘《さんたう》の詩に云ふ。老入歓場感易増《おいてくわんじやうにいればかんましやすし》、煙花猶記昔遊曾《えんくわなほしるすせきいうのそう》、酒楼旧日紅粧女《しゆろうきうじつこうしやうのぢよ》、已似禅家退院僧《すでににたりぜんかたいゐんのそう》。一腔《いつかう》の詩情|殆《ほとんど》永井荷風《ながゐかふう》氏を想はしむるものありと云ふ
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