笑つた。

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 僕は路ばたの砂の中に雨蛙《あまがへる》が一匹もがいてゐるのを見つけた。その時あいつは自動車が来たら、どうするつもりだらうと考へた。しかしそこは自動車などのはひる筈のない小みちだつた。しかし僕は不安になり、路ばたに茂つた草の中へ杖の先で雨蛙をはね飛ばした。

     ×

 僕は風向《かざむ》きに従つて一様《いちやう》に曲つた松の中に白い洋館のあるのを見つけた。すると洋館も歪《ゆが》んでゐた。僕は僕の目のせゐだと思つた。しかし何度見直しても、やはり洋館は歪《ゆが》んでゐた。これは不気味《ぶきみ》でならなかつた。

     ×

 僕は風呂《ふろ》へはひりに行つた。彼是《かれこれ》午後の十一時だつた。風呂場の流しには青年が一人《ひとり》、手拭《てぬぐひ》を使はずに顔を洗つてゐた。それは毛を抜いた※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にはとり》のやうに痩《や》せ衰へた青年だつた。僕は急に不快になり、僕の部屋へ引返した。すると僕の部屋の中に腹巻が一つぬいであつた。僕は驚いて帯をといて見たら、やはり僕の腹巻だつた。(以上|東屋《あづまや》にゐるうち)

 
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