袈裟と盛遠
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)盛遠《もりとお》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|癩《らい》を病んだ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正七年三月)
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上
夜、盛遠《もりとお》が築土《ついじ》の外で、月魄《つきしろ》を眺めながら、落葉《おちば》を踏んで物思いに耽っている。
その独白
「もう月の出だな。いつもは月が出るのを待ちかねる己《おれ》も、今日ばかりは明くなるのがそら恐しい。今までの己が一夜の中《うち》に失われて、明日《あす》からは人殺になり果てるのだと思うと、こうしていても、体が震えて来る。この両の手が血で赤くなった時を想像して見るが好《い》い。その時の己《おれ》は、己自身にとって、どのくらい呪《のろ》わしいものに見えるだろう。それも己の憎む相手を殺すのだったら、己は何もこんなに心苦しい思いをしなくてもすんだのだが、己は今夜、己の憎んでいない男を殺さなければならない。
己はあの男を以前から見知っている。渡左
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