玄鶴山房
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)尤《もっと》も

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|眉《まゆ》をひそめ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》
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   一

 ………それは小ぢんまりと出来上った、奥床しい門構えの家だった。尤《もっと》もこの界隈《かいわい》にはこう云う家も珍しくはなかった。が、「玄鶴山房《げんかくさんぼう》」の額や塀越しに見える庭木などはどの家よりも数奇《すき》を凝らしていた。
 この家の主人、堀越玄鶴は画家としても多少は知られていた。しかし資産を作ったのはゴム印の特許を受けた為だった。或はゴム印の特許を受けてから地所の売買をした為だった。現に彼が持っていた郊外の或地面などは生姜《しょうが》さえ碌《ろく》に出来ないらしかった。けれども今はもう赤瓦《あかがわら》の家や青瓦の家の立ち並んだ所謂《いわゆる》「文化村」に変っていた。………

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