ちの御行方を嗅ぎ出せ。」と云いました。
すると白犬は、折から吹いて来た風に向って、しきりに鼻をひこつかせていましたが、たちまち身ぶるいを一つするが早いか、
「わん、わん、御姉様《おあねえさま》の御姫様は、生駒山《いこまやま》の洞穴《ほらあな》に住んでいる食蜃人《しょくしんじん》の虜《とりこ》になっています。」と答えました。食蜃人《しょくしんじん》と云うのは、昔|八岐《やまた》の大蛇《おろち》を飼っていた、途方もない悪者なのです。
そこで木樵《きこり》はすぐ白犬と斑犬《ぶちいぬ》とを、両方の側《わき》にかかえたまま、黒犬の背中に跨って、大きな声でこう云いつけました。
「飛べ。飛べ。生駒山《いこまやま》の洞穴《ほらあな》に住んでいる食蜃人の所へ飛んで行け。」
その言《ことば》が終らない中《うち》です。恐しいつむじ風が、髪長彦の足の下から吹き起ったと思いますと、まるで一ひらの木《こ》の葉のように、見る見る黒犬は空へ舞い上って、青雲《あおぐも》の向うにかくれている、遠い生駒山の峰の方へ、真一文字に飛び始めました。
三
やがて髪長彦《かみながひこ》が生駒山《いこまやま
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