ながら、何度もこう自分に呼びかけた。
「根かぎり書きつづけろ。今|己《おれ》が書いていることは、今でなければ書けないことかも知れないぞ。」
しかし光の靄《もや》に似た流れは、少しもその速力をゆるめない。かえって目まぐるしい飛躍のうちに、あらゆるものを溺《おぼ》らせながら、澎湃《ほうはい》として彼を襲って来る。彼は遂に全くその虜《とりこ》になった。そうして一切を忘れながら、その流れの方向に、嵐《あらし》のような勢いで筆を駆った。
この時彼の王者のような眼に映っていたものは、利害でもなければ、愛憎でもない。まして毀誉《きよ》に煩わされる心などは、とうに眼底を払って消えてしまった。あるのは、ただ不可思議な悦《よろこ》びである。あるいは恍惚《こうこつ》たる悲壮の感激である。この感激を知らないものに、どうして戯作三昧《げさくざんまい》の心境が味到されよう。どうして戯作者の厳《おごそ》かな魂が理解されよう。ここにこそ「人生」は、あらゆるその残滓《ざんし》を洗って、まるで新しい鉱石のように、美しく作者の前に、輝いているではないか。……
× × ×
その間も茶の間の行燈《
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