十行二十行と、筆が進むのに従って、その光のようなものは、次第に大きさを増して来る。経験上、その何であるかを知っていた馬琴は、注意に注意をして、筆を運んで行った。神来の興は火と少しも変りがない。起すことを知らなければ、一度燃えても、すぐにまた消えてしまう。……
「あせるな。そうして出来るだけ、深く考えろ。」
馬琴はややもすれば走りそうな筆をいましめながら、何度もこう自分にささやいた。が、頭の中にはもうさっきの星を砕いたようなものが、川よりも早く流れている。そうしてそれが刻々に力を加えて来て、否応なしに彼を押しやってしまう。
彼の耳にはいつか、蟋蟀《こおろぎ》の声が聞えなくなった。彼の眼にも、円行燈のかすかな光が、今は少しも苦にならない。筆はおのずから勢いを生じて、一気に紙の上をすべりはじめる。彼は神人と相搏《あいう》つような態度で、ほとんど必死に書きつづけた。
頭の中の流れは、ちょうど空を走る銀河のように、滾々《こんこん》としてどこからか溢《あふ》れて来る。彼はそのすさまじい勢いを恐れながら、自分の肉体の力が万一それに耐《た》えられなくなる場合を気づかった。そうして、かたく筆を握り
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