うな憐《あわ》れむべき顔になろうとは、どうしても思われない。馬琴は幸福の意識に溺《おぼ》れながら、こんなことを考えた。そうしてそれが、さらにまた彼の心をくすぐった。
「まだ何かあるかい?」
「まだね。いろんなことがあるの。」
「どんなことが。」
「ええと――お祖父様はね。今にもっとえらくなりますからね。」
「えらくなりますから?」
「ですからね。よくね。辛抱おしなさいって。」
「辛抱しているよ。」馬琴は思わず、真面目な声を出した。
「もっと、もっとようく辛抱なさいって。」
「誰がそんなことを言ったのだい。」
「それはね。」
太郎は悪戯《いたずら》そうに、ちょいと彼の顔を見た。そうして笑った。
「だあれだ?」
「そうさな。今日は御仏参に行ったのだから、お寺の坊さんに聞いて来たのだろう。」
「違う。」
断然として首を振った太郎は、馬琴の膝から、半分腰をもたげながら、顋《あご》を少し前へ出すようにして、
「あのね。」
「うん。」
「浅草の観音《かんのん》様がそう言ったの。」
こう言うとともに、この子供は、家内中に聞えそうな声で、嬉《うれ》しそうに笑いながら、馬琴につかまるのを恐れるよう
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