は、折から伜《せがれ》の宗伯《そうはく》も帰り合せたらしい。太郎は祖父の膝にまたがりながら、それを聞きすましでもするように、わざとまじめな顔をして天井を眺めた。外気にさらされた頬が赤くなって、小さな鼻の穴のまわりが、息をするたびに動いている。
「あのね、お祖父《じい》様にね。」
 栗梅《くりうめ》の小さな紋附を着た太郎は、突然こう言い出した。考えようとする努力と、笑いたいのをこらえようとする努力とで、靨《えくぼ》が何度も消えたり出来たりする。――それが馬琴には、おのずから微笑を誘うような気がした。
「よく毎日《まいんち》。」
「うん、よく毎日《まいんち》?」
「御勉強なさい。」
 馬琴はとうとうふき出した。が、笑いの中ですぐまた語《ことば》をつぎながら、
「それから?」
「それから――ええと――癇癪《かんしゃく》を起しちゃいけませんって。」
「おやおや、それっきりかい。」
「まだあるの。」
 太郎はこう言って、糸鬢奴《いとびんやっこ》の頭を仰向けながら自分もまた笑い出した。眼を細くして、白い歯を出して、小さな靨《えくぼ》をよせて、笑っているのを見ると、これが大きくなって、世間の人間のよ
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