で知れる。尤《もつと》も動物には見えると見えて、犬が吠《ほ》えたり、鳥が逃げたりする、しまひに人間が絞《し》め殺される。その時居合せた男が見ると、その怪物と組み合つた人間は、怪物の体に隠れた所だけ、全然形が消えたやうに見えた、――と云つたやうな工合《ぐあひ》です。(The Damned Thing)もう一つはこれも月の光に見ると、顔は皺《しわ》くちやの敷布《シイト》か何かだつたと云ふのだから、新|工夫《くふう》には違ひありません。
 この位で御免《ごめん》蒙《かうむ》りますが、西洋の幽霊は一体《いつたい》に、骸骨《がいこつ》でなければ着物を着てゐる。裸の幽霊と云ふのは、近頃になつても一つも類がないやうです。尤《もつと》も怪物には裸も少くない。今のオオブリエンの怪物も、確《たしか》毛むくぢやらな裸でした。その点では幽霊は、人間より余程《よほど》行儀《ぎやうぎ》が好《よ》い。だから誰か今の内に裸の幽霊の小説を書いたら、少くともこの意味では前人未発の新天地を打開した事になる筈です。
[#地から1字上げ](大正十一年一月)
[#地から1字上げ]〔談話〕



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全
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