開化の良人
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上野《うえの》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一々|叮嚀《ていねい》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]
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 いつぞや上野《うえの》の博物館で、明治初期の文明に関する展覧会が開かれていた時の事である。ある曇った日の午後、私《わたくし》はその展覧会の各室を一々|叮嚀《ていねい》に見て歩いて、ようやく当時の版画《はんが》が陳列されている、最後の一室へはいった時、そこの硝子戸棚《ガラスとだな》の前へ立って、古ぼけた何枚かの銅版画を眺めている一人の紳士《しんし》が眼にはいった。紳士は背のすらっとした、どこか花車《きゃしゃ》な所のある老人で、折目の正しい黒ずくめの洋服に、上品な山高帽《やまたかぼう》をかぶっていた。私はこの姿を一目見ると、すぐにそれが四五日前に、ある会合の席上で紹介された本多子爵《ほんだししゃく》だと云う事に気がつ
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