目次
紫天鵞絨/桐/薔薇/客中恋/若人/砂上遅日


紫天鵞絨


やはらかく深紫の天鵞絨《ビロウド》をなづる心地か春の暮れゆく

いそいそと燕もまへりあたゝかく郵便馬車をぬらす春雨

ほの赤く岐阜提灯もともりけり「二つ巴」の春の夕ぐれ(明治座三月狂言)

戯奴《ジヨーカー》の紅き上衣に埃の香かすかにしみて春はくれにけり

なやましく春は暮れゆく踊り子の金紗の裾に春は暮れゆく

春漏の水のひゞきかあるはまた舞姫のうつとほき鼓か(京都旅情)

片恋のわが世さみしくヒヤシンスうすむらさきににほひそめけり

恋すればうら若ければかばかりに薔薇《さうび》の香にもなみだするらむ

麦畑の萌黄天鵞絨|芥子《けし》の花五月の空にそよ風のふく

五月来ぬわすれな草もわが恋も今しほのかににほひづるらむ

刈麦のにほひに雲もうす黄なる野薔薇のかげの夏の日の恋

うかれ女のうすき恋よりかきつばたうす紫に匂ひそめけむ
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桐 (To Signorina Y. Y.)


君をみていくとせかへしかくてまた桐の花さく日とはなりける

君とふとかよひなれにしあけくれをいくたびふみし落椿ぞも

広重のふ
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