るき版画のてざはりもわすれがたかり君とみればか

いつとなくいとけなき日のかなしみをわれにおしへし桐の花はも

病室のまどにかひたる紅き鳥しきりになきて君おもはする

夕さればあたごホテルも灯ともしぬわがかなしみをめざまさむとて

草いろの帷《とばり》のかげに灯ともしてなみだする子よ何をおもへる

くすり香もつめたくしむは病室の窓にさきたる※[#「さんずい+自」、第3水準1−86−66]芙藍《サフラン》の花

青チヨオク ADIEU と壁にかきすてゝ出でゆきし子のゆくゑしらずも

その日さりて消息もなくなりにたる風騒《ふうそう》の子をとがめたまひそ

いととほき花桐の香のそことなくおとづれくるをいかにせましや

[#地付き](四・九・一四)
[#改ページ]

薔薇


すがれたる薔薇《さうび》をまきておくるこそふさはしからむ恋の逮夜は

香料をふりそゝぎたるふし床より恋の柩にしくものはなし

にほひよき絹の小枕《クツサン》薔薇色の羽ねぶとんもてきづかれし墓

夜あくれば行路の人となりぬべきわれらぞさはな泣きそ女よ

其夜より娼婦の如くなまめける人となりしをいとふのみかは

わが足に膏《
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