》にはな、卦にはちゃんと出ています。」
お蓮はここへ来た時よりも、一層心細い気になりながら、高い見料《けんりょう》を払った後《のち》、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》家《うち》へ帰って来た。
その晩彼女は長火鉢の前に、ぼんやり頬杖《ほおづえ》をついたなり、鉄瓶《てつびん》の鳴る音に聞き入っていた。玄象道人の占いは、結局何の解釈をも与えてくれないのと同様だった。いや、むしろ積極的に、彼女が密《ひそ》かに抱《いだ》いていた希望、――たといいかにはかなくとも、やはり希望には違いない、万一を期する心もちを打ち砕いたのも同様だった。男は道人がほのめかせたように、実際生きていないのであろうか? そう云えば彼女が住んでいた町も、当時は物騒な最中だった。男はお蓮のいる家《うち》へ、不相変《あいかわらず》通って来る途中、何か間違いに遇ったのかも知れない。さもなければ忘れたように、ふっつり来なくなってしまったのは、――お蓮は白粉《おしろい》を刷《は》いた片頬《かたほお》に、炭火《すみび》の火照《ほて》りを感じながら、いつか火箸を弄《もてあそ》んでいる彼女自身を見出《みいだ》した
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