鑑定
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)果亭《くわてい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)諸|君子《くんし》
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三円で果亭《くわてい》の山水《さんすゐ》を買つて来て、書斎の床《とこ》に掛けて置いたら、遊びに来た男が皆その前へ立つて見ちや「贋物《がんぶつ》ぢやないか」と軽蔑した。滝田樗陰《たちたちよいん》君の如きも、上から下までずつと眼をやつて、「いけませんな」と喝破《かつぱ》してしまつた。が、こちらは元来怪しげな書画を掘り出して来る事を以て、無名の天才に敬意を払ふ所以《ゆゑん》だと心得てゐるんだから、「僕は果亭《くわてい》だから懸《か》けて置くのぢやない。画《ゑ》の出来が好《い》いから懸けて置くのだ」と号して、更に辟易《へきえき》しなかつた。けれどもこの山水を贋物《がんぶつ》だと称する諸|君子《くんし》は、悉《ことごと》くこれを自分の負惜《まけを》しみだと盲断した。のみならず彼等の或者は「兎《と》に角《かく》無名の天才は安上《やすあが》りで好《い》いよ」などと云つて、いやににやにや笑ひさへした。ここに至る以上自分と雖
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