寒山拾得
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)漱石《そうせき》先生

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|寒山拾得《かんざんじつとく》が
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 久しぶりに漱石《そうせき》先生の所へ行つたら、先生は書斎のまん中に坐つて、腕組みをしながら、何か考へてゐた。「先生、どうしました」と云ふと「今、護国寺の三門で、運慶が仁王を刻んでゐるのを見て来た所だよ」と云ふ返事があつた。この忙しい世の中に、運慶なんぞどうでも好いと思つたから、浮かない先生をつかまへて、トルストイとか、ドストエフスキイとか云ふ名前のはいる、六づかしい議論を少しやつた。それから先生の所を出て、元の江戸川の終点から、電車に乗つた。
 電車はひどくこんでゐた。が、やつと隅の吊革《つりかは》につかまつて、懐に入れて来た英訳の露西亜《ロシア》小説を読み出した。何でも革命の事が書いてある。労働者がどうとかしたら、気が違つて[#「違つて」は底本では「違って」]、ダイナマイトを抛《はふ》りつけて、しまひにその女までどうとかしたとあつた。兎《と》に角《かく》万事が切迫してゐて、暗澹たる
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