蛙
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)側《わき》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全|大空《たいくう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ころろ[#「ころろ」に傍点]
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自分の今寝ころんでゐる側《わき》に、古い池があつて、そこに蛙《かへる》が沢山《たくさん》ゐる。
池のまはりには、一面に芦《あし》や蒲《がま》が茂つてゐる。その芦《あし》や蒲《がま》の向うには、背《せい》の高い白楊《はこやなぎ》の並木《なみき》が、品《ひん》よく風に戦《そよ》いでゐる。その又向うには、静な夏の空があつて、そこには何時《いつ》も細《こまか》い、硝子《ガラス》のかけのやうな雲が光つてゐる。さうしてそれらが皆、実際よりも遙《はるか》に美しく、池の水に映《うつ》つてゐる。
蛙はその池の中で、永い一日を飽きず、ころろ、かららと鳴きくらしてゐる。ちよいと聞くと、それが唯ころろ[#「ころろ」に傍点]、からら[#「からら」に傍点]としか聞えない。が、実は盛に議論を闘《たたかは》してゐるのである。蛙《かへる》が口をきくのは
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