永久に不愉快な二重生活
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中村《なかむら》さん

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)生活|全容《ぜんよう》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正七年十月)
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 中村《なかむら》さん。
 問題が大きいので、ちよいと手軽に考をまとめられませんが、ざつと思ふ所を云へばかうです。
 元来芸術の内容となるものは、人としての我々の生活|全容《ぜんよう》に外《ほか》ならないのだから、二重生活と云ふ事は、第一義的にはある筈がないと考へます。
 が、それが第二義的な意味になると、いろいろむづかしい問題が起つて来る。生活を芸術化するとか、或は逆に芸術を生活化するとか云ふ事も、そこから起つて来るのでせう。
 あなたの手紙にあつた芸術家の職業問題などは、それを更に一歩|皮相《ひさう》な方面へ移して来ての問題だと思ひます。
 だから「物心《ぶつしん》両面に於《お》ける人としての生活と、芸術家としての生活の関係交渉」と云つても、それぞれの意義に相当な立場をきめてかか
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