芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)横浜《よこはま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)主人|陳彩《ちんさい》は

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]
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 横浜《よこはま》。
 日華洋行《にっかようこう》の主人|陳彩《ちんさい》は、机に背広の両肘《りょうひじ》を凭《もた》せて、火の消えた葉巻《はまき》を啣《くわ》えたまま、今日も堆《うずたか》い商用書類に、繁忙な眼を曝《さら》していた。
 更紗《さらさ》の窓掛けを垂れた部屋の内には、不相変《あいかわらず》残暑の寂寞《せきばく》が、息苦しいくらい支配していた。その寂寞を破るものは、ニスの※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》のする戸の向うから、時々ここへ聞えて来る、かすかなタイプライタアの音だけであった。
 書類が一山片づいた後《のち》、陳《ちん》はふと何か思い出したように、卓上電話の受話器を耳へ当てた。

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