う》する必要を見ない。
 しかし新らしい観念《イデエ》や人に色目も使はぬと云ふことは退屈そのものの証拠である。同時に又僕の恥《は》づるところである。すると色目を使つたと云ふ、常に溌剌たる生活力の証拠は宇野氏の独占に委《まか》すべきではない。僕も亦《また》分け前に与《あづか》るべきである。或は僕|一人《ひとり》に与へらるべきである。然るに偏頗《へんぱ》なる藤森氏は宇野氏にのみかう云ふ名誉を与へた。如何《いか》に脱俗《だつぞく》した僕と雖《いへど》も、嫉妬せざるを得ない所以《ゆゑん》である。
 かたがた僕は小閑を幸ひ、色目の辯を艸《さう》することとした。
[#地から1字上げ](大正十三年四月)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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