」
「へい、お見舞いに上がったのです。なんでも御病気だとかいうことですから。」
「どうしてそんなことを知っている?」
「ラディオのニウスで知ったのです。」
バッグは得意そうに笑っているのです。
「それにしてもよく来られたね?」
「なに、造作《ぞうさ》はありません。東京の川や掘割りは河童には往来も同様ですから。」
僕は河童《かっぱ》も蛙《かえる》のように水陸|両棲《りょうせい》の動物だったことに今さらのように気がつきました。
「しかしこの辺には川はないがね。」
「いえ、こちらへ上がったのは水道の鉄管を抜けてきたのです。それからちょっと消火栓《しょうかせん》をあけて……」
「消火栓をあけて?」
「旦那《だんな》はお忘れなすったのですか? 河童にも機械屋のいるということを。」
それから僕は二三日ごとにいろいろの河童の訪問を受けました。僕の病はS博士《はかせ》によれば早発性痴呆症《そうはつせいちほうしょう》ということです。しかしあの医者のチャックは(これははなはだあなたにも失礼に当たるのに違いありません。)僕は早発性痴呆症患者ではない、早発性痴呆症患者はS博士をはじめ、あなたがた自身だと
前へ
次へ
全86ページ中83ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング