。僕はベッドの上に横たわったなり、チャックのするままになっていました。実際また僕の体《からだ》はろくに身動きもできないほど、節々《ふしぶし》が痛んでいたのですから。
 チャックは一日に二三度は必ず僕を診察にきました。また三日に一度ぐらいは僕の最初に見かけた河童、――バッグという漁夫《りょうし》も尋ねてきました。河童は我々人間が河童のことを知っているよりもはるかに人間のことを知っています。それは我々人間が河童を捕獲することよりもずっと河童が人間を捕獲することが多いためでしょう。捕獲というのは当たらないまでも、我々人間は僕の前にもたびたび河童の国へ来ているのです。のみならず一生河童の国に住んでいたものも多かったのです。なぜと言ってごらんなさい。僕らはただ河童《かっぱ》ではない、人間であるという特権のために働かずに食っていられるのです。現にバッグの話によれば、ある若い道路|工夫《こうふ》などはやはり偶然この国へ来た後《のち》、雌《めす》の河童を妻にめとり、死ぬまで住んでいたということです。もっともそのまた雌の河童はこの国第一の美人だった上、夫の道路工夫をごまかすのにも妙をきわめていたというこ
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