あおむ》けに倒れたまま、大勢の河童にとり囲まれていました。のみならず太い嘴《くちばし》の上に鼻目金《はなめがね》をかけた河童が一匹、僕のそばへひざまずきながら、僕の胸へ聴診器を当てていました。その河童は僕が目をあいたのを見ると、僕に「静かに」という手真似《てまね》をし、それからだれか後ろにいる河童へ Quax, quax と声をかけました。するとどこからか河童が二匹、担架《たんか》を持って歩いてきました。僕はこの担架にのせられたまま、大勢の河童の群がった中を静かに何町か進んでゆきました。僕の両側に並んでいる町は少しも銀座通りと違いありません。やはり毛生欅《ぶな》の並み木のかげにいろいろの店が日除《ひよ》けを並べ、そのまた並み木にはさまれた道を自動車が何台も走っているのです。
やがて僕を載せた担架は細い横町《よこちょう》を曲ったと思うと、ある家《うち》の中へかつぎこまれました。それは後《のち》に知ったところによれば、あの鼻目金をかけた河童の家、――チャックという医者の家だったのです。チャックは僕を小ぎれいなベッドの上へ寝かせました。それから何か透明な水薬《みずぐすり》を一杯飲ませました
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