石の半身像です。僕は何かそれらの像を見知っているように思いました。それもまた不思議ではありません。あの腰の曲った河童《かっぱ》は「生命の樹」の説明をおわると、今度は僕やラップといっしょに右側の龕の前へ歩み寄り、その龕の中の半身像にこういう説明を加え出しました。
「これは我々の聖徒のひとり、――あらゆるものに反逆した聖徒ストリントベリイです。この聖徒はさんざん苦しんだあげく、スウェデンボルグの哲学のために救われたように言われています。が、実は救われなかったのです。この聖徒はただ我々のように生活教を信じていました。――というよりも信じるほかはなかったのでしょう。この聖徒の我々に残した『伝説』という本を読んでごらんなさい。この聖徒も自殺未遂者だったことは聖徒自身告白しています。」
僕はちょっと憂鬱《ゆううつ》になり、次の龕《がん》へ目をやりました。次の龕にある半身像は口髭《くちひげ》の太い独逸《ドイツ》人です。
「これはツァラトストラの詩人ニイチェです。その聖徒は聖徒自身の造った超人に救いを求めました。が、やはり救われずに気違いになってしまったのです。もし気違いにならなかったとすれば、ある
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