遠いチャックです。チャックはちょっと鼻目金《はなめがね》を直し、こう僕に質問しました。
「日本にも死刑はありますか?」
「ありますとも。日本では絞罪《こうざい》です。」
僕は冷然と構えこんだペップに多少反感を感じていましたから、この機会に皮肉を浴びせてやりました。
「この国の死刑は日本よりも文明的にできているでしょうね?」
「それはもちろん文明的です。」
ペップはやはり落ち着いていました。
「この国では絞罪などは用いません。まれには電気を用いることもあります。しかしたいていは電気も用いません。ただその犯罪の名を言って聞かせるだけです。」
「それだけで河童は死ぬのですか?」
「死にますとも。我々河童の神経作用はあなたがたのよりも微妙ですからね。」
「それは死刑ばかりではありません。殺人にもその手を使うのがあります――」
社長のゲエルは色硝子《いろガラス》の光に顔中紫に染まりながら、人なつこい笑顔《えがお》をして見せました。
「わたしはこの間もある社会主義者に『貴様は盗人《ぬすびと》だ』と言われたために心臓|痲痺《まひ》[#「痲痺」は底本では「痳痺」]を起こしかかったものです。」
「
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